トップ > メンバー紹介

網中昭世

Aminaka akiyo
(東京外国語大学AA研/日本学術振興会)

私はモザンビーク南部の農村社会を対象として、世界規模での資本主義の展開と社会の変容について研究してきました。アフリカ地域の中でもモザンビーク南部の農村に着目する理由は、近現代史的な関心として、第一に、この地域が19世紀後半以降の植民地支配の下で世界の金の半分を生産する鉱山開発において8割にも及ぶ労働力を移民労働者として供給してきたという特徴から、資本主義世界経済の展開と社会変容の極例として位置づけられるからです。そして第二に、ポルトガル植民地モザンビークの農村社会の人々が英領植民地の経済開発を支えるという特徴的な構図にあります。この構図の非対称性と社会の変容を関係づけることによって、世界経済と支配の重層構造の関係性を明らかにしつつ、対象時期の制約的状況においても主体的に生きる人々の歴史を再構成することを試みてきました。
 現在は、主食用作物を中心とした農業とそれに纏わる文化を歴史的な観点から考察する共同研究に参加し、モザンビークを中心とした移民労働との関連で人の移動と営農形態の変化について研究しています。また、同時代に関する研究では、アパルトヘイト体制の終焉から民主化を経た後の「ポスト移行期」の南アフリカと国際関係について、そして南部アフリカにおける政治変動と国民形成に関する2つの共同研究に参加し、モザンビークに視点を置いて研究を進めています。


<主要業績>
「ポルトガル植民地支配とモザンビーク南部における移民労働―ポルトガル・南アフリカ政府間協定の締結過程(1901-1928)」『歴史学研究』第832号、2007年、19-34頁.
「モザンビーク南部の移民送り出しとその社会的影響の地域的多様性―植民地期のアルコール市場をめぐる競合と排除」『アフリカ研究』第76号、2010年、1-15頁.

梅屋潔

Umeya kiyoshi
(神戸大学大学院国際文化学研究科 准教授)

東アフリカ、ウガンダにすむナイル系アドラ民族の宗教と世界観の研究


私はここ12、3年ほど、ウガンダとケニアの国境近くのトロロという地域の村でフィールドワーク(現地調査)をしています。専門用語をつかうと「妖術・邪術をはじめとする世界観の研究」をしていますが、わかりやすくいうと「呪いや祟り」をキーワードにそこに住む人びとの考え方を知ろう、としているわけです。社会=文化人類学では、現地に出かけ、そこに何年か住み込み調査を行うことが方法論の中心となっています。しかも、ひとたび調査基地を定めてからはあまり移動することはありません。多くは定点観測です。とくに私が中心的な課題にしているのは、呪いとか祟りとか死霊とか、質問をしてすぐ答えが返ってくるようなものではなく、語るのがはばかられるような話題ですから、とくに時間がかかります。信用を獲得するためには同じ場所に何年もかけて住み、何回も訪れる必要があります。なぜ、呪いや祟りをキーワードにしているか、という問いにはいろいろな答え方がありますが、こういった「超自然的」な観念が持ち出されるときには、その社会の中心的な価値観が表出すると考えるからです。例えば、アフリカでは、妻には子供を産むことが強く期待されています。豊穣の観念とも結びついています。子供が生まれないということは社会の中心的価値基準からいうと「異常事態」です。そこで呪いが疑われます。そして呪術医を呼んで「解呪」するわけです(目的論的に説明するのは間違っていますが、当の女性の責任が少なくとも最初には問われない、という副次的効用もあります)。アフリカに限りません。日本にも沖縄のユタや東北のイタコやカミサマのような呪いや祟りを扱う宗教者がいます。「困ったときの神頼み」という言葉もあります。不治の病にかかったときに位牌やお墓のありかを問題にする人は日本にも多いはずです。これは祖霊の問題に他なりません。健康で、何不自由なく暮らしていれば不要な観念に見えるかも知れませんが、ひとたび「災い」に直面したときにはとたんにそういった「超自然的」な観念の出番が来るのです。人は、自分が生まれてきた理由さえ知りません。「いかにして」How不幸になったかはわかります。しかし、「なぜ」Whyどうして自分にこんな不幸が降りかかってくるのだろう、という解答のでない難問に答えるには(答えないで放置できるほど人間は図太くはできていないようです)、まだまだ呪いや祟りの居場所はあるのです。


このプロジェクトでは、上記の研究を進めてきた過程で出会った考え方、人、関係などを資源として、何かできれば、と考えています。現在のところ、ずっとお世話になっていたウガンダにあるマケレレ大学で国際シンポジウムを開ければ、といろいろな人に相談しているところです。


<主要業績>

『憑依と呪いのエスノグラフィー』(浦野茂・中西裕二と共著)岩田書院, 2001年.
「酒に憑かれた男たち―ウガンダ・アドラ民族における酒と妖術の民族誌―」中野麻衣子・深田淳太郎編著『人=間の人類学―内的な関心の発展と誤読―』はる書房,2010年.
「ある遺品整理の顛末―ウガンダ東部トロロ県A・C・K・オボス=オフンビの場合―」『国立歴史民俗博物館研究報告』印刷中、近刊.

<関連HP>
http://www2.kobe-u.ac.jp/~umeya/site01/

佐川徹

Sagawa toru
(京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科 助教)

わたしは2001年から、牧畜集団間の紛争が頻発してきたエチオピア、ケニア、スーダン国境付近でフィールドワークをおこない、地域の集団間関係を主題とした研究を続けてきました。とくに、実際に戦いに行きそこで家畜を奪ったり敵の成員を殺してきた人たちから戦場での経験を聞き取り調査したり、民族境界を超えた友人関係や親族関係が平和の回復に果たす役割についての分析をおこなってきました。

最近関心があるのは、わたしがこれまで調査してきた地域に大きな影響を与えつつあるナショナル、リージョナル、グローバルな動きです。具体的には、近年盛んになりつつある牧畜集団間の紛争に対する地方政府らの介入の動き、2000年代に入ってから勃興しつつあるアフリカ牧畜民による権利回復運動の動き、同じく2000年代に入ってからアフリカ大陸各地で進行中の「新たなアフリカ分割」、つまり海外民間資本による大規模な土地取得の動きです。


<主要業績>
佐川 徹(2011)『暴力と歓待の民族誌-東アフリカ牧畜社会の戦争と平和』昭和堂。
Sagawa, Toru (2010) Local Potential for Peace: Trans-ethnic Cross-cutting Ties among the Daasanach and their Neighbors. In Christina Echi-Gabbert and Sophia Thubauville (eds.) To Live with Others: Modalities of Cultural Neighborhood in Southern Ethiopia. Köln, Köppe.
Sagawa, Toru (2010) Local Order and Human Security after the Proliferation of Automatic Rifles in East Africa. In Malcolm McIntosh and Alan Hunter (eds.) New Perspectives on Human Security. pp. 250-258. Sheffield, Greenleaf.
佐川 徹 (2010) 「東アフリカ牧畜社会の小型武器と武装解除」川端正久・武内進一・落合雄彦((編) 『紛争解決-アフリカの経験と展望』ミネルヴァ書房、pp. 221-251。


<関連HP>
京都大学アフリカ地域資料センター

佐藤靖明

Sato yasuaki
大阪産業大学 専任講師

東アフリカ内陸部の大湖地方(ウガンダ、ルワンダ、タンザニア、コンゴ民主共和国、ケニアの一部)には、バナナ栽培を軸とする農耕社会が広く分布しています。それらを対象として、人と植物の関係、つまり民族植物学(エスノボタニー)の観点からフィールドワークをおこなっています。主たる調査地はウガンダ中部です。
 地域における人とバナナのかかわりの特質を浮き彫りにするため、これまでに分類・栽培・利用に関する参与観察、聞き取り、畑での計測、食事調査、植物採集などをおこなってきました。これらの基礎的な作業は、従来の人類学が築き上げてきた「アフリカ農耕民」像の再検討・検証につながっています。
 最近では、歴史的な観点を含めた研究の展開を模索するとともに、バナナという作物をとおして、現代アフリカにおける農業(産業)開発の課題と可能性を考えています。


<主要業績>
『ウガンダ・バナナの民の生活世界―エスノサイエンスの視座から』(京都大学アフリカ地域研究資料センター、2011)
『アフリカの料理用バナナ』(国際農林業協働協会編、共著、2010)


<関連HP>
個人ウェブサイト  

白石壮一郎

Shiraishi soichiro
(日本学術振興会ナイロビ研究連絡センター センター長/京都大学アフリカ地域研究資料センター 特任助教)

大学院時代より、ウガンダ共和国東部のエルゴン山に暮らすサビニ(Sabiny)という農耕民の社会でフィールドワークを続けています。これまでのおもな研究テーマは、家畜放牧や農作業での人びとの協同のあり方、耕地の保有や境界をめぐるコンフリクトの内容分析です。フィールドの農村は20世紀後半期において、犂耕、イスラム教やペンテコステ派キリスト教、地方評議会制、商品作物、貨幣経済など、さまざまな新たなものごとを受け入れてきました。人びとにとっての社会変化の経験とは、在来のやり方の諸断片を組み替えながら困難な事態に対処していき、社会関係を再編していくことだと考えています。

滞在するたびにお世話になっている居候先の家族をはじめ、フィールドの人びとともすでに10年余の付き合い。ともに食べ、歩き、笑う時間を過ごしてきました。草の根民主主義、地方町の開発の村への影響、若者の生きづらさ、家族の変容、携帯の普及、伝統文化の再帰化や政治化・・・などなど、先進国の社会学がトピックとするようなものごとも、じつはウガンダ農村の同時代的な調査テーマとしてじゅうぶんにありうる、と思える今日この頃です。


<主要業績>
小國和子・亀井伸孝・飯嶋秀治編(2011、共著)『支援のフィールドワーク ―開発と福祉の現場から』、世界思想社。
白石壮一郎(2011、単著)『文化の権利、幸福への権利 ―人類学から考える』、関西学院大学出版会。 
白石壮一郎編 (2009、編著) 『アフリカ地域社会における資源管理とガバナンスの再編 ―住民の生計戦略をめぐる協働とコンフリクト』、Kyoto Working Papers on Area Studies. No.84. 京都大学東南アジア研究所。 


<関連HP>
 Fieldnet 利用者情報

鈴木英明

Szuki hideaki
日本学術振興会特別研究員PD(受入機関:東洋文庫)

私はこれまでインド洋海域世界という海をその中心においた人々の繋がり合いの歴史を勉強してきました。現在ではペルシア湾岸やインド北西部でも調査をしていますが、最初に注目したのが、アフリカ大陸東部沿岸のスワヒリ世界と呼ばれる世界です。ここは古くからインド洋を股にかけた交易圏の一部で、人々は内陸部と海を跨いだ地域との橋渡し役を担いながら、そうした繋がりのなかで育まれた独自の文化を築いてきました。修士までは特にこのスワヒリ世界の中世史について、遺構やアラビア語文献を用いながら勉強しました。2010年に提出した博士論文では、19世紀を対象にして、このスワヒリ世界や内陸部の人々を含みこんだ繋がり合いとしてのインド洋西海域世界の実像と特にそこにおける奴隷交易に携わる人々の変容を論じるなかで、そこに見出せるこの海域世界の「近代」を考えました。現在は、国家や民族や宗教などによって細分化されない世界史像を考えるべく、人々の生業や繋がり合いのサイクルに着目しながら、アフリカ大陸の人々をそのなかでどのように位置づけられるのかということに取り組んでいます。


<主要業績>
「インド洋西海域と「近代」―奴隷の流通を辞令にして」『史学雑誌』第116編第7号、2007年、1-33頁.
「19世紀東アフリカ沿岸社会の奴隷制とジェンダー」粟屋利江・松本悠子編『人の移動と文化の交差(ジェンダー史叢書7)』明石書店、2011年、66-85頁.
「サイード・ビン・スルターン没後のアフリカ大陸東部領土相続をめぐる経緯―奴隷流通構造における沿岸部スワヒリ社会の機能変化に関する追論」『スワヒリ&アフリカ研究』第22巻、2011年、1-24頁.

大門碧

Daimon midori
(日本学術振興会/京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科)

京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科、博士後期課程に所属しています。
2006年からウガンダの首都カンパラで、若者たちを対象に調査を続けてきました。ひとつのエスニシティや出身地では括ることが到底できない若者たちが結ぶ社会関係を探求しています。具体的には、新興のエンターテイメント・ショーに携わる若者たちを追いかけています。若者たちがどのようにショーをつくりあげていくのかを観察し、かれらのこだわりを見つけ出そうと考えています。同時にレストランやバー、劇場に設けられたステージという場所をどのように捉えているのか、さらにカンパラの人びとがどのようにショーを楽しんでいるのかを考察することで、舞台芸能研究も取り組んでいこうとしています。最近では、自分自身がカンパラの劇場に役を与えられて演じることもあるので、この共に芝居をつくるという体験を生かしてかれらの「演じる」極意を体得するだけでなく、「調査者(外国人)がどのように見られ、なにを求められるのか」を分析できないかと考えています。


<主要業績>
大門碧(2011)「ウガンダの首都カンパラにおける若者たちの社会関係:現代アフリカのサブカルチャー〈カリオキ〉を事例にして」『アジア・アフリカ地域研究』第10-2号: 144-175。


<関連HP>
Nairobi Field Station

波佐間逸博

Hazama itsuhiro
(長崎大学 国際連携研究戦略本部/ 大学院 国際健康開発研究科 助教)

現代ウガンダ牧畜民社会での人と牧畜家畜の社会行動に注目して、その家畜化過程や放牧の成立機序を人類学的に解明する研究に取り組んできました。カリモジョンやドドスといった牧民家族と家族の家畜とともに暮らしながら、人と家畜の関係の両サイドを観察してきました。とくに両者間の相互交換的な社会行動やコミュニケーションを考察して、群居性の草食動物がウガンダの牧民にどのように影響を及ぼしているか、そして動物じしんが家畜化過程においていかに能動的で独自な伴侶であるかを、民族誌的に描き出したいと思っています。


<主要業績>

"The Genealogy of the Human-Nature Nexus", T. Meguro (ed.), Re-Conceptualization of Wildlife Conservation: Toward Resonation between Subsistence and Wildlife, Nairobi: ACTS Press, 2009.

"Disarmament Policies for Ending Armed Conflict in an East-African Pastoral Society", D. Knaute & S. Kagan (eds.), Sustainability in Karamoja?: Rethinking the Terms of Global Sustainability in a Crisis Region of Africa, Köln: Rüdiger Köppe Verlag, 2009.

眞城百華

Maki momoka
(津田塾大学国際関係研究所 研究員)

専門はエチオピア近現代史、アフリカ研究、国際関係学です。エチオピア北部に居住するティグライ人を中心に国家と民族の関係について歴史研究を行っています。19世紀末から現代までを射程にしており、これまで19世紀末から20世紀初頭のエチオピア帝国成立期のティグライと中央政府の関係、1943年にティグライ州で発生した「反乱」について研究を行ってきました。2003年から2005年まで2年間エチオピアに滞在し、主にオーラルヒストリー調査を実施しました。その後も、ほぼ毎年エチオピアにおける調査を実施しています。近年は、ティグライ州と国境を接するエリトリアについても研究を行っています。イタリア侵略下でイタリアに略奪されたオベリスクの返還を中心に歴史遺産の返還問題、飢饉の歴史、また歴史研究以外にもティグライ州におけるローカルNGOの活動、反政府勢力の女性兵士についても調査、研究を行っています。


<主要業績>
眞城百華、「エチオピアの民衆反乱に対するイギリス軍の空爆」『季刊戦争責任研究』第63号(2009年),pp. 20-28.
Momoka MAKI, "Wayyana", in Siegbert Uhlig (ed), Encyclopedia Aethiopica, vol. 4 (O-X), Harrassowitz, 2010, pp. 1164-1166, 2010.
Momoka MAKI, "The Gaz raid and the Reconstruction of Ethiopian Empire: The Final Gaz in Tigray and Northern Wollo, 1941-1942", Nilo-Ethiopian Studies, no. 14 (2010), pp. 39-50.