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河合香吏

Kawai kaori
(准教授)

1986年以来,東アフリカ・ケニア共和国において,東ナイロート語群Maa系の言語集団に属する牧畜民チャムスを対象とした人類学的研究をすすめてきました。1994年以降は,北ケニアの極乾燥地域に住む牧畜民トゥルカナの調査,および北東ウガンダ・カラモジャ地域の広域調査を経て,1997年より東ナイロート語群Teso-Turkana系(Karimojong Cluster)の牧畜民ドドスに対象をさだめてインテンシヴな調査を開始しました。
 チャムスを対象とした研究では,民族医学,民俗生殖理論と性,年齢組織と年齢カテゴリーなどをテーマに,「身体という自然」を結節点とした文化・社会のダイナミクスを描くことを目指してきました。ここでは,身体は「主体」に閉じこめられたものではなく,また,象徴論的な立場から一元的にとらえられるのでもなく,広く文化・社会にひらかれたものとしてあつかわれます。これにより,さまざまな規範や制度,知識や信念,具体的な行為等のうちに生きられる人びとの経験を,身体的な存在としての人間がかかえている「自然」と,人間がつくりあげてきた文化・社会との相互関係のなかにたちあらわれるものと位置づけて理解することが可能となります。
 チャムスにおいて身体をめぐる認知と実践に集中してきた研究は,トゥルカナ,ドドス調査の進展とともに,身体性を基軸とした人間・自然・社会の相互関係の解明をめざす自然観・環境認識の問題系へと展開されています。その軌跡をしめす研究成果は,『野の医療-牧畜民チャムスの身体世界』(1998)から「身体という『自然』-牧畜民チャムスの認識と行為から」(2000)をへて,「『地名』という知識-ドドスの環境認識論・序説」(2002)へとつらなる一連の研究として提出されています。現在は,議論の対象を「身体という自然」からより広くひろく自然一般に敷衍させてゆく架橋として,とくに土地と自然資源にたいする認識,利用,領有をめぐる実践と空間表象に的をしぼった研究をすすめています。


<主要業績>
  河合香吏『野の医療:牧畜民チャムスの身体世界』東京大学出版会,1998年.
  河合香吏編『生きる場の人類学―土地と自然の認識・実践・表象過程』 京都大学
  学術出版会,2007年.
  河合香吏編『集団:人類社会の進化』京都大学学術出版会,2009年.
  床呂 郁哉・河合香吏編『ものの人類学』京都大学学術出版会,2011年.